猫の慢性腎臓病の真の原因と最新の治療法 ~獣医師が解説する予防と悪化防止のポイント~

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はじめに

猫の慢性腎臓病は、猫の健康と生命を脅かす深刻な疾患です。しかし、その原因や病態については、これまで十分に解明されていませんでした。本記事では、最新の研究や臨床経験に基づき、猫の慢性腎臓病の真の原因と革新的な治療法について詳しく解説します。飼い主の皆様には、大切な愛猫を守るために、ぜひこの情報を活用していただきたいと思います。また、獣医師の方々にも、猫の慢性腎臓病の予防と治療に役立てていただければ幸いです。

慢性腎臓病の原因

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猫の慢性腎臓病の原因については、これまでよくわかっていませんでしたが、猫ちゃんの生理や、革新的な治療に対する反応により、遺伝的な水分摂取不足が主因であると推察されます。

猫は水分の少ない砂漠で生きていた動物を祖先にもち、飲水量が少なくても、体内で発生した尿毒素を、効率よく排出できます。すなわち、腎臓での尿毒素の濃縮率が高く、その分、腎臓の仕事量、つまり、腎臓への負荷が多くなり、結果、疲弊する年齢が早まります。加えて、腎臓内で濃縮された原尿は、高濃度の尿毒素等であり、これ自体で尿細管の詰まりや、尿細管と周辺細胞の炎症、それに続く壊死、線維化を誘発します。以上の二点が慢性腎臓病の真の原因と考えられます。

一方、鳴物入りで華々しく登場したAIMですが、生来、猫ちゃんのAIMは進化的に封印され、生涯働きません。AIMは、不要物に付着して、貪食細胞等による除去処理を促す働きがあります。猫の慢性腎臓病の重要な病態として、尿細管の詰まりがあり、AIMはこの詰まりを除去します。ですから、このAIMが生涯働かないから、猫には慢性腎臓病が多いと、AIMの発見者、AIM製剤の開発者である宮崎博士は唱えていますが、要は、尿細管の詰まりの原因と、慢性腎臓病のもう一つの重要な病態である尿細管と周辺細胞の炎症の原因こそが慢性腎臓病の真の原因だと考えます。

生物は、適者生存の原理により、遺伝的に進化します。その結果、猫ちゃんの場合は、AIMが封印されました。つまり、慢性腎臓病の真の原因を解決せずして、AIMだけを投与することは、生存のための進化に反することで、大きな弊害がでると考えられます。詳説は、後ほど述べます。

慢性腎臓病の病態

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腎臓の本来の機能が損なわれ、体内尿毒素量の増加、抗利尿ホルモン感受性低下による再吸収水分量の減少(多尿)、酸塩基等の排出障害で酸性化、エリスロポエチン産生量低下による貧血、ミネラル排出障害による高リン血症、活性化ビタミンD3低下、上皮小体ホルモン(パラソルモン)亢進、高血圧等が観られます。

ただ、高血圧は、多尿による腎臓循環血液量減少に対する代償作用(全身の血管を収縮させ腎臓循環血液量を増やすことで腎臓を護る作用)によるものと推察されます。

体内の尿毒素量増加は、全身の炎症を引き起こし、腸管のバリアと腸内細菌叢を破壊します。また、尿毒素自体で腎臓病を増悪させ、腸管のバリアと腸内細菌叢の破壊は、更なる尿毒素の産生量を増し、かつ、エンドトキシン等の毒素や細菌、ウイルスの体内侵入を許容して、悪循環に陥り、致命的な事態を招きます。

慢性腎臓病の症状と検査結果

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慢性腎臓病の主な症状は、嘔吐、酸性化による呼吸数増加、食欲不振、元気消失、毛艶不良、体重減少、多尿、貧血などです。検査結果では、腎数値(SDMA、BUN、Cre)上昇、血中無機リン値上昇、高血圧、腎臓萎縮、タンパク尿などが観察されます。

猫の場合、人や犬と異なり、亡くなる当日まで、多量の尿産生があり、慢性腎臓病悪化防止の治療を容易にします。

慢性腎臓病の好発要因

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品種による違いはありませんが、若齢時から、飲水量が少ない、または、飲水量の少ないフードを摂取する猫は、高率に慢性腎臓病に罹患します。早い猫で、8歳くらいで観られ、多くは、10歳過ぎに発症します。猫の80%以上が慢性腎臓病に罹患し、慢性腎臓病は、交通事故を除く死亡原因の第一位になっています。

ミネラルや塩分の多い、つまり、腎臓に負担をかける、味の濃い、人の料理を食べる猫は、キャットフードを食べる猫より、かなり早期に慢性腎臓病に罹患します。人用の削り節や、晩酌のつまみ等を食べる猫は、5歳くらいで、慢性腎臓病に罹患します。

慢性腎臓病と、その他の泌尿器疾患との関連性

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猫の疾患で多いのは、膀胱炎、結石症、尿路閉塞等の泌尿器疾患です。これは、慢性腎臓病と同じ、水分摂取不足が主因であると考えられます。

膀胱炎を繰り返したり、尿路結石ができたりする猫は、尿路閉塞を起す危険性が高まり、これが、急性腎臓病を引き起こし、引いては、慢性腎臓病になります。この尿路結石症の既往歴がある猫は、かなり深刻で、慢性腎臓病悪化防止の治療を不可能にしますので、絶対に避けたい疾病です。

ビジネス至上主義の獣医の罪として、以下の2つがあります。

  1. 膀胱炎で、リン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)の結石ではなく、結晶が確認されたからと、pHを下げる療養食を処方すること
  2. 尿路閉塞の原因が、ストルバイトの場合で、長期にわたってpHを下げる療養食を処方すること

まず、前者の膀胱炎では、尿pHの上昇から、ストルバイト結晶がでるのは当たり前で、膀胱炎の原因ではありませんから、pHを下げる療養食を処方すべきではありません。また、後者のストルバイトによる尿路閉塞の場合でも、長期に及ぶpHを下げる療養食の処方は控えるべきです。理由は、溶解不可能なシュウ酸カルシウムの結晶が結石を作り、腎臓を障害し、慢性腎臓病悪化防止のための治療を不可能にするからです。

最近、シュウ酸カルシウム対策にもなるUT cleanCaというサプリもあるようですが、効果は一定していません。

慢性腎臓病の治療の実際、可能性及び限界

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慢性腎臓病は確実に悪化する病気を理由に、積極的な治療はなされていません。根本療法というより、対症療法がメインであり、例えば、タンパク制限、リン制限、リン・窒素態化合物の腸内吸着・減少、造血ホルモン投与、輸血、療養食などで、いずれも、慢性腎臓病悪化は防止できず、加えて、猫の生活の質を著しく損ねます。

数年後にAIM製剤が販売される見込みです。これは、予備試験で慢性腎臓病末期猫でも救命できましたが、投与を中止したら亡くなりましたので、AIM製剤は、血中の尿毒素処理効果(透析効果)のみで、慢性腎臓病の治癒や慢性腎臓病悪化防止は不可能であることを、引いては、多尿、貧血、血中無機リン値の上昇、血中活性型ビタミンD3値の減少、血中上皮小体ホルモン(パラソルモン)値の上昇、腎臓萎縮、タンパク尿及び高血圧は改善できないことを示唆していますから、AIMに関する過度で誇大な宣伝は慎むべきであり、AIMへの過度の期待も控えたほうがいいと思います。

確かに、AIMは、透析効果で、慢性腎臓病の末期の猫を救命できますが、恐らく高額になるであろうAIM製剤を生涯、定期的に静脈注射する必要があります。夢の薬のようですが、現実的ではありませんし、もっと、現実的で猫の生活の質を下げない治療法があります。

この現実的な治療法は、確かに、腎臓の再生は弱いようですが、明らかに、慢性腎臓病の悪化は防止でき、症状等が改善できます。ただ、慢性腎臓病の末期猫の救命は厳しいと思われ、その場合は、透析効果のあるAIMが役立ちます。

慢性腎臓病は、末期でなければ、慢性病の悪化を防止し、食欲、元気、かつ、体重を回復させる治療法があります。

ただ、以下の猫は、この慢性腎臓病悪化を防止する治療法はできませんし、むしろ禁忌です。

  1. 治療を要する、うっ血性心不全の猫
  2. 尿路結石による尿路閉塞の既往歴があり結石が残存する猫
  3. 稀ですが、末期で尿産生が著減または停止している猫

慢性腎臓病の悪化を防止する治療法ですが、基本、慢性腎臓病の原因を考慮に入れた、かつ、再生もはかった治療法になります。

水分補給

  • 毎日の皮下補液 300~500ml
    内容は、必ず、腎臓血液循環量を増し、多少の細胞内に入る自由水があり、かつ、酸性化を是正する乳酸リンゲルです。ただし、重篤な肝臓障害がある場合は、酢酸リンゲルです。酢酸リンゲルの欠点は、皮下への刺激性があることと、血管拡張作用があることです。生理食塩水、リンゲル及びブドウ糖液は使わないでください。
  • 腎臓血液循環量に加えて、細胞内に移動する自由水を補給する目的で肉や魚肉を味付けなしで茹でた茹で汁を冷まして給与、及びウエット総合栄養食と合わせて、水分含量の多い、肉や魚肉を茹でてあげる
    *肉中のリン含量を心配される方は、炭酸ランタンを投与

猫のAIMを活性化させ尿細管の詰まりを除去

グルタチオンとLシスチンの経口投与

慢性炎症の抑制

ラプロスとアスタキサンチンの経口投与

降圧

アムロジピン(カルシウム拮抗薬)

ベナゼプリル(フォルテコールで、アンジオテンシン変換阻害薬)

テルミサルタン(セミントラで、アンジオテンシンII受容体拮抗薬)

べラプロストナトリウム(ラプロスで、プロスタサイクリ受容体を介した作用)

*多尿(高血圧の原因)に対応する相当量の皮下補液や経口補液をせずに、上記の降圧剤を投与すると慢性腎臓病は悪化しますので“禁忌”です

*ベナゼプリル、テルミサルタン又はべラプロストナトリウムなどの1剤で降圧効果が得られなければ、アムロジピンとの併用が必要になります

高リン対策

炭酸ランタン

その他のリン吸着剤

*腎臓からのリン排出が減り、高リン血症になり、血中カルシウムと結合し、低カルシウムに続く血中上皮小体ホルモン上昇及び石灰化を招きます

上皮小体機能亢進が過度になりますと、高カルシウム血症になる猫もいます

上皮小体ホルモンは、腎臓での、リン利尿で、リンの排出を促進しますが、慢性腎臓病では、腎臓のリン排出機能が低下しています

一方、上皮小体ホルモンは、骨吸収、つまり、骨から血液へ移動するリンが増しますので、慢性腎臓病での高リン血症は増悪します

よって、高リン対策は重要になります

再生の促進

NV1とβNMNの経口投与

尿毒素の産生量抑制と慢性腎臓病に効く水素の発生量増加

プラチナナノコロイド、ラクツロース及び善玉菌の経口投与

その他慢性腎臓病に効果のあるサプリ

水素24時間発生ケイ素製剤の経口投与

慢性腎臓病の線維化組織の融解と再生

無毒化幹細胞培養上清の静脈注射

活性型ビタミンD3低下対策

活性型ビタミンD3は、上皮小体ホルモンと同じく、カルシウムの骨からの動員、腎臓からのカルシウム排出抑制及び腸でのカルシウム吸収の促進がありますが、リンの調整に関しては、上皮小体ホルモンと同様に、リンの骨からの動員を増し、かつ、上皮小体ホルモンと異なり、腎臓でのリンの再吸収を促進し、かつ、腸でのリンの吸収を促進しますので、慢性腎臓病での高リン血症におきましては、好ましくないビタミンです。よって、活性型ビタミンD3低下対策は実施しておりません。ただ、活性型ビタミンD3は、免疫にもかかわりますので、活性型ビタミンD3以外のサプリで免疫を高める必要があります。

慢性腎臓病悪化防止治療を阻害する人為的な因子

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多くのかかりつけ獣医の慢性腎臓病に対する考察・知識不足による弊害です。 多くのかかりつけ獣医は、以下の理由で、最も重要な皮下補液を制限し、毎日、慢性腎臓病を悪化させています。

  • 肺水腫
    治療を要するうっ血性心不全、尿路閉塞、または尿産生著減・停止がなければ肺水腫にはなりません。
  • 高血圧の悪化と弊害
    慢性腎臓病では、多尿により腎臓血液循環量が減り、更に慢性腎臓病は悪化しますから、腎臓は防御反応として、レニン-アンジオテンシン・アルドステロン系の作用で血管を収縮して、かつ、Naの再吸収を促進して、結果、腎臓血液循環量を改善します。これが、高血圧の機序です。そのため、慢性腎臓病では、相当量の皮下補液は必須になり、相当量の皮下補液をせずに降圧剤を投与しますと慢性腎臓病は悪化しますので、相当量の皮下補液なしの降圧剤使用は禁忌です。確かに、高血圧は、心臓、血管及び臓器に悪影響を与え、失明のリスクも高め、何より、タンパク尿で慢性腎臓病を悪化させますから、降圧剤の投与は必要です。そのためには、相当量の皮下補液は必須になります。
  • 貧血が増悪する
    尿中水分の排出速度は、はるかに、皮下補液水分の血管流入速度よりも早いので、理論的にも実際にも、貧血が進行することはありません。
  • 腎臓による水分再吸収能力が下がる
    慢性腎臓病では、抗利尿ホルモンの感受性が鈍り、水分再吸収能力はすでに低下しています(多尿)ので、皮下補液で、さらに水分再吸収能力が低下することは考えられません。仮に水分再吸収能力が更に低下しても、経口水分補給により、細胞内への自由水の補給はできますし、腎臓血液循環量は相当量の皮下補液で十分に補えます。

慢性腎臓病の予防

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これは、非常に簡単で、人や犬のように、腎臓を護る相当量の水分摂取につきます。 あとは、猫のAIMを活性化させるグルタチオンやLシスチン(サプリまたはAIM30という名称のフード)の投与。

*AIMは、尿細管の詰まりを取る作用が期待されていますが、相当量の水分補給を伴わないと、腎内マクロファージによる尿細管や周囲細胞の炎症、引いては慢性腎臓病の悪化を誘発する危険性があります。理由は、AIMは慢性腎臓病の元凶となる悪玉マクロファージの細胞死を抑制する可能性があるからです。

具体的な予防法は以下の通りです。

  • ウエット中心のフード
  • 肉や魚肉
  • 肉や魚肉を茹でた汁
  • 新鮮な水
  • カルキ臭のない水
  • 凍った水分が含まれるペットボトルの放置
  • 冬季における給与水の保温

*ドライフードを減らすと歯石や口内炎になると心配される方は、環境大善のきえーるや歯磨き効果のあるグッズなどがおすすめです。

AIMとAIM30フードについて

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AIMの働きと問題点については、上記で述べました。AIM30には、決してAIMは含有されておらず、猫のAIMを活性化するLシスチンが含まれるだけで、そのLシスチンが、実際に猫体内で、猫のAIMを活性化する証拠はありませんし、また、上記で述べました通り、相当量の水分補給を伴わずにAIMだけを活性化すると、逆に腎内の炎症や慢性腎臓病を悪化する危険性がありますので、AIM30やLシスチンサプリをあげる場合は、必ず、相当量の水分補給をしましょう。AIMは諸刃の剣であり、末期を除く慢性腎臓病猫は、十分に水分補給をしたうえでAIMの功罪のうち功のみを受け、慢性腎臓病悪化を防止しましょう。

療養食とタンパク質制限について

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まず、上記の慢性腎臓病悪化防止の治療法を実施すれば、旨みのない療養食やタンパク質制限は、一切不要です。猫の生活の質を下げるべきではありません。

あと、タンパク質が多いと、腸内悪玉菌により、多くのアンモニアや尿毒素が産生され、慢性腎臓病を悪化させる危険性がありますが、上記の、慢性腎臓病悪化防止の治療では、悪玉菌を唯一殺しかつ善玉菌を増やすプラチナナノコロイド、善玉菌及び善玉菌を増やすラクツロースを与えていますので、タンパク質からの尿毒素産生や尿毒素吸収は抑えられます。

逆に旨みのない療養食やタンパク質制限は、猫の摂取量不足を招き、結果、猫自身の筋肉を削り、多くの尿毒素を産生し、慢性腎臓病は悪化します。何より、旨みのないフードを食べることで生活の質は著しく低下します。

タンパク質は、癌予防、自然治癒力、長寿及び猫の幸せには必須の栄養素です。誰が一番得するのでしょうか?

今一度、猫ちゃんの可愛い澄んだ瞳を見て、猫ちゃんに語りかけてThinkしましょう!


【執筆・監修】足立幸蔵/獣医師・博士

About 【執筆・監修】足立幸蔵/獣医師・博士

1963年長崎県生まれ。宮崎大学卒業後、山口大学で獣医学を修了。宮崎県で畜産コンサルタントとして牛の診療に従事した経験を持つ。

現在はペットの診療、予防、栄養管理などを幅広く行い、特に猫伝染性腹膜炎(FIP)や慢性腎臓病の治療において独自のアプローチで高い成功率を誇る。自然免疫活性化物質や最先端治療にも精通。

院長を務める動物病院「PUPPY CAT CLINIC」

全国、北海道から沖縄まで往診を行っており、各地のペットオーナーのニーズに応じた診療を提供しています。

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