はじめに
猫の外耳炎は、外耳道の炎症を特徴とする疾患で、猫の耳の病気の中でも比較的よく見られます。放置すると重症化し、猫の生活の質を大きく低下させる可能性があるため、飼い主が早期に症状に気づき、適切な対処をすることが重要です。そこで今回は、獣医師監修のもと、猫の外耳炎の症状と家でできる予防ケアについて詳しく解説します。
1. 外耳炎の原因

猫の外耳炎は、外耳道の炎症を特徴とする疾患で、様々な原因によって引き起こされます。外耳炎の適切な予防と治療のためには、その原因を理解することが重要です。ここでは、猫の外耳炎の主な原因について詳しく解説します。
耳ダニ
耳ダニは、猫の外耳炎の最も一般的な原因の一つです。耳ダニは、外耳道に寄生し、痒みや炎症を引き起こします。猫は、耳を頻繁に掻いたり、振ったりすることで、耳ダニの存在を示唆します。耳ダニは、直接接触や環境を介して猫から猫へ容易に伝播します。
アレルギー
アレルギーは、猫の外耳炎の原因となることがあります。食物アレルギーや環境アレルゲン(ハウスダスト、花粉など)に対する過敏反応が、外耳道の炎症を引き起こす場合があります。アレルギー性の外耳炎は、慢性的な経過をたどることが多く、他の部位のアレルギー症状(皮膚炎など)を伴うことがあります。
細菌感染
外耳道の環境が悪化すると、細菌が増殖し、外耳炎を引き起こすことがあります。耳ダニやアレルギーによる炎症、外耳道の湿潤、耳垢の蓄積などが、細菌感染のリスクを高めます。細菌感染による外耳炎は、耳の痛みや熱感、膿性の耳垢を特徴とします。
真菌感染
真菌(酵母)も、猫の外耳炎の原因となることがあります。マラセチア(Malassezia)は、健康な猫の外耳道に常在する真菌ですが、免疫力の低下や他の要因により過剰に増殖すると、外耳炎を引き起こします。真菌感染による外耳炎は、褐色の耳垢や強い臭いを特徴とします。
異物
草の種子や小さな虫など、外耳道に異物が入り込むことで、外耳炎が引き起こされることがあります。異物は、外耳道を物理的に刺激し、炎症や感染を引き起こします。猫が屋外で過ごす機会が多い場合は、異物による外耳炎のリスクが高まります。
腫瘍
稀ではありますが、外耳道の腫瘍が外耳炎の原因となることがあります。良性腫瘍(ポリープなど)や悪性腫瘍(扁平上皮癌など)が、外耳道を閉塞したり、炎症を引き起こしたりします。腫瘍による外耳炎は、一側性で、治療に抵抗性であることが多いです。
自己免疫疾患
全身性エリテマトーデス(SLE)や尋常性天疱瘡(PF)などの自己免疫疾患が、猫の外耳炎の原因となることがあります。自己免疫疾患では、免疫システムが自己の組織を攻撃し、外耳道の炎症を引き起こします。自己免疫性の外耳炎は、他の部位の症状(皮膚病変、関節炎など)を伴うことが多いです。
外耳炎の原因は多岐にわたるため、適切な診断と治療のためには、獣医師の専門的な知識と経験が必要です。飼い主は、猫の耳の健康状態を定期的にチェックし、異常に気づいたら速やかに獣医師に相談することが重要です。また、日常的な耳のケアを行うことで、外耳炎のリスクを減らすことができます。
2. 外耳炎の症状

外耳炎は、猫の耳に不快感や痛みを引き起こし、QOLを大きく低下させる可能性があります。飼い主が外耳炎の症状を早期に発見し、適切な治療を行うことが重要です。ここでは、猫の外耳炎の代表的な症状について詳しく解説します。
耳掻き
外耳炎の最も一般的な症状は、耳掻きです。猫は、痒みや不快感のために、頻繁に耳を掻いたり、擦ったりします。耳掻きは、片側性または両側性に見られることがあります。過剰な耳掻きは、外耳道の皮膚を傷つけ、炎症をさらに悪化させる可能性があります。
頭部の振り
外耳炎の猫は、頭部を頻繁に振ったり、傾けたりすることがあります。これは、耳の不快感や痛みを和らげるための行動と考えられています。頭部の振りは、炎症の程度や原因によって、軽度から重度まで様々です。
耳垢の増加
外耳炎の猫では、耳垢の量が増加することがよくあります。健康な猫の耳垢は、淡黄色から淡褐色で、少量で乾燥しています。一方、外耳炎の猫の耳垢は、量が多く、湿った状態で、色が濃い(濃褐色、黒色)ことが多いです。耳垢の性状は、外耳炎の原因によって異なります(細菌感染では膿性、真菌感染では褐色)。
耳の臭い
外耳炎の猫の耳からは、不快な臭いがすることがあります。臭いの性質は、外耳炎の原因によって異なります。細菌感染では、腐敗臭や膿臭が、真菌感染では、発酵臭や酸臭が特徴的です。耳の臭いは、炎症の程度が進むにつれて強くなります。
耳の発赤と腫脹
外耳炎の猫の外耳道は、発赤や腫脹を示すことがあります。これは、炎症による血管拡張や組織の肥厚を反映しています。発赤と腫脹は、外耳道の視診で確認できる場合もありますが、耳垢や分泌物によって隠れていることもあります。
耳の痛み
外耳炎が進行すると、猫は耳の痛みを示すことがあります。痛みのために、猫は耳を触られることを嫌がったり、攻撃的になったりします。耳の痛みは、炎症の程度や感染の合併症(中耳炎など)によって、軽度から重度まで様々です。
聴力の低下
重度の外耳炎や慢性化した外耳炎では、聴力の低下を引き起こすことがあります。外耳道の閉塞や鼓膜の損傷が、音の伝導を妨げ、難聴を引き起こします。聴力の低下は、猫の反応の鈍化や音への無反応として現れます。
全身症状
外耳炎が重症化すると、全身症状を伴うことがあります。発熱、食欲不振、元気消失などの症状が見られる場合は、外耳炎が全身に影響を及ぼしている可能性があります。全身症状を伴う外耳炎は、速やかに獣医師の診察を受ける必要があります。
外耳炎の症状は、炎症の程度や原因によって様々です。早期の段階では、症状が軽微で見過ごされやすいため、注意深い観察が重要です。飼い主は、日頃から猫の耳の健康状態をチェックし、異常に気づいたら速やかに獣医師に相談しましょう。適切な診断と治療により、外耳炎による不快感や痛みを和らげ、猫のQOLを維持することができます。
3. 外耳炎の診断と治療

外耳炎の適切な治療のためには、正確な診断が不可欠です。獣医師は、問診、身体検査、および各種の検査を組み合わせて、外耳炎の原因を特定し、適切な治療方針を立てます。ここでは、猫の外耳炎の診断と治療について詳しく解説します。
診断
問診
獣医師は、飼い主から猫の症状、発症時期、症状の進行、既往歴、生活環境などの情報を収集します。これらの情報は、外耳炎の原因を絞り込むための重要な手がかりとなります。
身体検査
獣医師は、猫の全身状態を評価し、外耳道の視診と触診を行います。耳垢の量や性状、外耳道の発赤や腫脹、耳の痛みの有無などを確認します。また、リンパ節の腫脹や全身症状の有無も評価します。
耳垢の顕微鏡検査
採取した耳垢を顕微鏡で観察することで、耳ダニの有無、細菌や真菌の感染、炎症細胞の種類などを評価します。この検査は、外耳炎の原因を特定するために重要です。
細菌培養と感受性試験
細菌感染が疑われる場合は、耳垢を培養して細菌の種類を同定し、抗生物質に対する感受性を調べます。この検査は、適切な抗生物質の選択に役立ちます。
画像検査
重度の外耳炎や慢性化した外耳炎では、X線検査やCT検査を行って、中耳炎の有無や耳の構造的な異常を評価することがあります。
生検
腫瘍性病変が疑われる場合は、外耳道の生検を行って、病理学的に評価します。生検は、腫瘍の種類や悪性度を確認するために重要です。
治療
外耳炎の治療は、原因に応じて行われます。治療の目的は、炎症を抑制し、感染を制御し、再発を防ぐことです。
耳掃除
耳垢や分泌物を除去することは、外耳炎の治療の基本です。獣医師は、専用の耳洗浄液を用いて、外耳道を丁寧に洗浄します。飼い主は、獣医師の指導のもと、家庭でも定期的な耳掃除を行います。
薬物療法
外耳炎の原因に応じて、以下のような薬物療法が行われます:
- 抗生物質:細菌感染が認められた場合は、感受性試験に基づいて選択された抗生物質を全身的または局所的に投与します。
- 抗真菌薬:真菌感染が認められた場合は、抗真菌薬を全身的または局所的に投与します。
- ステロイド:炎症を抑制するために、ステロイド剤を全身的または局所的に投与します。
- 耳ダニ駆除薬:耳ダニが認められた場合は、イベルメクチンなどの駆除薬を投与します。
外科的治療
重度の外耳炎や腫瘍性病変がある場合は、外科的治療が必要になることがあります。外耳道の切除術や中耳の手術が行われます。
再発予防
外耳炎の再発を防ぐためには、原因の除去と定期的な耳掃除が重要です。アレルギーが関与する場合は、アレルゲンの特定と除去、食事療法などが行われます。また、耳ダニの定期的な駆除や、免疫力を維持するための全身管理も重要です。
外耳炎の診断と治療には、獣医師の専門的な知識と経験が不可欠です。飼い主は、獣医師とのコミュニケーションを密にし、適切な治療と予防を行うことが重要です。また、日常的な耳のケアを行い、異常に気づいたら速やかに獣医師に相談することが、猫の耳の健康維持につながります。
4. 家でできる予防ケア

外耳炎を予防するためには、飼い主が日常的に行う耳のケアが重要です。適切な予防ケアにより、外耳炎のリスクを減らし、猫の耳の健康を維持することができます。ここでは、家でできる外耳炎の予防ケアについて詳しく解説します。
定期的な耳のチェック
飼い主は、少なくとも週に1回は猫の耳を観察し、異常がないかをチェックします。以下のような点に注目します:
- 耳垢の量や性状の変化
- 耳の発赤や腫脹
- 耳の臭い
- 耳掻きや頭振りの頻度
異常に気づいたら、速やかに獣医師に相談します。
適切な耳掃除
定期的な耳掃除は、外耳炎の予防に重要です。ただし、過剰な耳掃除は逆効果になることがあるため、獣医師の指導のもと、適切な頻度で行います。
耳掃除の手順
- 猫を安静にし、耳掃除に適した場所に置きます。
- 専用の耳洗浄液を外耳道に適量注入します。
- 耳の基部を優しくマッサージして、耳洗浄液を外耳道全体に行き渡らせます。
- 猫が頭を振って耳洗浄液を排出するのを待ちます。
- 柔らかい布やコットンで、外耳道の入り口から見える範囲の耳垢や分泌物を拭き取ります。
- 耳の深部に綿棒を挿入しないように注意します。
耳掃除の頻度
猫の耳の状態に応じて、耳掃除の頻度を調整します。健康な猫は、月に1~2回程度の耳掃除で十分です。外耳炎の治療中や、耳垢が多い猫は、獣医師の指示に従って、より頻繁に耳掃除を行います。
環境管理
外耳炎の予防には、猫の生活環境を清潔に保つことが重要です。以下のような点に注意します:
- 寝床やキャリーバッグなどの定期的な洗浄
- 空気清浄機の使用による空気の浄化
- 湿度の管理(高湿環境は真菌の増殖を促進する)
また、猫が屋外で過ごす場合は、草の種子や虫などの異物が耳に入らないように注意します。
栄養管理
バランスの取れた食事は、免疫力を維持し、外耳炎のリスクを減らすために重要です。以下のような点に注意します:
- 年齢や健康状態に適した高品質な食事の提供
- アレルギーが疑われる場合は、獣医師の指導のもと、食事療法を行う
- 必要に応じて、オメガ3脂肪酸などのサプリメントを添加する
ストレス管理
ストレスは、免疫力を低下させ、外耳炎のリスクを高めます。猫のストレスを最小限に抑えるために、以下のような点に注意します:
- 適切な隠れ家やハイペット(高い場所)の提供
- 規則的な食事時間とトイレ掃除
- 十分な遊びと運動の機会の提供
- 複数飼いの場合は、猫同士の相性に配慮する
定期的な健康チェック
外耳炎の早期発見と予防のために、定期的に獣医師の健康チェックを受けることが重要です。年に1~2回の定期健診で、耳の状態を評価してもらいます。また、外耳炎の治療後は、再発がないかを確認するために、獣医師の指示に従って経過観察を行います。
外耳炎の予防には、飼い主の日常的な努力が不可欠です。適切な耳のケアと環境管理、栄養管理、ストレス管理を行うことで、猫の耳の健康を維持することができます。また、定期的な健康チェックにより、外耳炎の早期発見と適切な治療が可能になります。飼い主は、獣医師とのコミュニケーションを密にし、猫の耳の健康維持に積極的に取り組むことが重要です。
まとめ

猫の外耳炎は、耳ダニやアレルギー、細菌、真菌などが原因で発生する外耳道の炎症性疾患です。耳の痒みや耳垢の増加、臭いなどの症状が見られた場合は、速やかに獣医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが重要です。飼い主は、日頃から耳の観察や掃除、環境管理、ノミ・ダニ予防、健康管理などの予防ケアを行うことで、外耳炎のリスクを減らすことができます。獣医師と飼い主が協力し、予防と早期発見・早期治療に努めることが、猫の健康で快適な生活につながるでしょう。

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